現実のPBがドラマ「プライベートバンカー」を考察してみた【第7話】
こんにちは!WealthLeadの濱島です。今回は、今年からスタートしたドラマ「プライベートバンカー」について、このドラマに登場するようなプライベートバンカーは現実的なのか、ドラマで描かれた内容も含めて、思うところを語ってみたいと思います。
今回は、「事業承継」と「資産運用のリスク管理」、そして「信頼できるアドバイザーの選び方」についてお話しします。
資産家の一族で起こるお家騒動や投資トラブルなど、「現実にもありそう…」と感じた方も多いのではないでしょうか。
1. 事業承継とファミリーガバナンスの重要性
家族経営の企業における事業承継では、ドラマのように親子や兄弟姉妹の間で対立が生まれがちです。誰が後継者にふさわしいか、経営方針を巡って意見の食い違いがあるかもしれません。
天宮寺家のように、娘が母にクーデターを起こす…とまでは稀だとしても、程度の差こそあれ、骨肉の争いになるケースは現実にも存在します。
実際の例として有名なのが、大塚家具のお家騒動です。創業者である父と、その長女である社長が経営権をめぐって真っ向から対立し、連日ニュースになりました。最終的には娘である久美子氏が株主の支持を得て社長の座を守りましたが、会社のイメージは大きく損なわれ、業績も悪化、最終的にはヤマダ電機に買収されてしまいました。
大塚家具のケースは“事業承継の典型的な失敗例”とも言われており、ファミリービジネスにおけるガバナンス(統治)の重要性を世に知らしめた出来事でした。
では、こうしたファミリー内の対立を防ぎ、円満に事業承継を行うにはどうすればいいのでしょうか?
鍵となるのは、ファミリーガバナンスです。ファミリーのガバナンス、つまり、「家族が企業を所有・経営していく上でのルールや話し合いの仕組み」をあらかじめ設けておくことがポイントになります。
例えば、後継者選びのプロセスや経営権の移譲については「家族憲章」や「家族会議」を設置して、そこでルールに則って話し合えば、透明性のある公正な合意形成を図ることができます。ファミリーガバナンスがしっかり機能していれば、事前に家族間でコンセンサスが取れているので、今回のドラマのように土壇場でクーデター劇に発展する可能性は格段に低くなるのです。
逆に、こうした取り決めがないまま欲や感情に任せて争ってしまうと、会社の経営そのものが不安定になり、最悪の場合は家族も会社も共倒れ…なんてことにもなりかねません。
ポイントは、「血のつながり」と「ビジネス」を切り離して考えすぎないことです。事業承継はビジネス上の意思決定であると同時に、家族の物語でもあります。だからこそ、家族の価値観を共有し、みんなが納得できるルールを用意しておくことで、次の世代へのバトンタッチをスムーズにする必要があるのです。
親子や兄弟だと遠慮があって言い出せないことも、あえて家族会議のような正式な場を設ければ話し合えることがあります。また、必要に応じて第三者の専門家、プライベートバンカーや弁護士、ファミリーオフィスのコンサルタントなど、をファシリテーターに据えて調整するのも有効です。最近では、金融機関や投資ファンドもファミリーガバナンスに注目しており、安定的な事業承継の支援策として提案されるケースも増えているようです。
まとめると、事業承継では「家族内の信頼とルール作り」が極めて大切ということですね。血縁だからこそ生じる強い対立もありますが、逆に言えば血縁だからこそ固い結束も築けます。ドラマでも、最後は美琴の情けによって会社が救われました。
実際の世界でも、家族の信頼関係とガバナンスが承継成功のカギを握っていると言えるでしょう。今回の沙織と美琴の対立劇は、「計画なき継承」がいかに危ういかを示す例と言えますね。
2.資産運用のリスク管理
次に、資産運用のリスク管理について考えてみましょう。沙織は目先の欲に駆られ、ハイリスクハイリターンの案件に飛びついた結果、大きな痛手を負ってしまいました。悪役のプライベートバンカー、ウエンツ瑛士演じる岡田が最初に示した「1週間で資産を3倍にした」という華々しい結果は、沙織にとって非常に魅力的に映ったのでしょう。しかし、それはサステナブルな資産運用ではなく、レバレッジを駆使した非常にハイリスク、しかもまやかしの数字にすぎませんでした。
この1週間勝負、実は岡田の背後を探るための庵野の策略だったわけですが、「資産運用にそもそも」について学びがあります。
岡田はAI関連株にレバレッジをかけて集中投資、庵野は日本株に分散投資しました。結果は別として、どうしても短期間で大きく儲ける必要がある時にリスクを考慮して分散投資していたのでは望む結果は得られないでしょう。その場合はリスクを取って勝負する必要があります。ただし、レバレッジをかけた場合は、よりリスクは高まります。ドラマの中でも、借りたお金を返したらほとんど儲けはなかったとの結果になっていました。
最初の岡田の目くらましを見抜けなかった沙織は、岡田の勧める投資話に次から次へと乗っていて、結果的には大損していました。岡田のような悪徳バンカーは論外と思うかもしれませんが、実は現実の世界でもよくあることです。
最近も、年利30%もの高利回りを謳うような投資話を聞きました。また、「月利で3%」とうたう場合もありました。結果的に大きなリターンが上がる時はありますが、元本が安全でかつ大きなリターンが約束されているような商品はありません。「スマホの中の数字は増えていても、それを引き出そうとしたら引き出せない」ことはよくある話です。
冷静に考えてほしいのは、世の中にそんな魔法のような運用法があるなら皆とっくに富豪になっているはずですよね。多くの場合、それらは単なる高リスクの投機か、ポンジ・スキームのような詐欺だったりします。「うまい話には裏がある」、これを肝に銘じておいてください。
通常の資産運用において、「長期・分散」は鉄則です。庵野の取った戦略は日本株の中での分散投資でしたが、多額の資金を運用する場合は特に、リスクとリターンのバランスを考え、株式や債券、その他の資産クラスにも分散して投資することが大切です。
また、着実に資産を増やしていくには、時間をかけて資産を育てる意識が大切です。短期売買ではなく、複利効果も活かした長期分散投資こそ、富裕層が資産を維持・拡大する秘訣と言われています。
沙織ももし最初に庵野の忠告を聞き入れていれば、もう少し違った結果になっていたかもしれません。短期的な成果に飛びつく前に、「その裏にどんなリスクがあるのか?」「最悪のケースで損失はいくらになるか?」といった点をしっかり検討する冷静さが必要です。
特に大きなお金を動かすときほど、舞い上がったりパニックになったりしがちなので、ブレーキをかけてくれる存在、信頼できるアドバイザーなどを持つことも重要です。資産運用はマラソンであり、短距離走ではないという意識を常に忘れないようにしたいものです。
3. 信頼できるアドバイザーの選び方
最後に、信頼できるアドバイザーの選び方について考えてみましょう。富裕層の資産管理には専門的な知識が欠かせませんから、多くの方はプライベートバンカーやファイナンシャル・アドバイザーと呼ばれる専門家の力を借りています。
では改めて、プライベートバンカーとは具体的にどんな役割を果たす人なのでしょうか?一言でいうと、顧客である富裕層とその家族の資産を守り増やすための包括的アドバイスと支援を行うお金の専門家です。運用資産のポートフォリオの設計から事業承継・相続のプランニング、税務に関する相談など、財務に関するあらゆる相談に包括的かつ長期的な視点で寄り添い、オーダーメイドの戦略を提供してくれます。いわば富裕層の「お金の執事」です。
顧客のファミリーも含め、信頼関係を築き、長期にわたり伴走しながら、顧客の利益のために働くことがPBの仕事の本質です。庵野はまさに天宮寺家にとってそのような存在でした。しかし、重要なのは「誰をPBに選ぶか」です。PBも人間である以上、誰もが常に顧客本位とは限りません。
中には今回の岡田のように、自分の利益を優先して動く“ニセモノPB”も存在します。岡田は、表向き優秀で華やかに見えましたが、裏では顧客の資産を使って手数料を二重に獲得するという不誠実な行為を働いていました。
リスクの高い取引で一時的に成果を出し「自分に任せればこんなに増やせますよ」と沙織に信じ込ませてから、一気に大きな取引をさせていました。利益相反も甚だしい行為で、とんでもない輩でした。
一見すると固い握手で信頼関係を結んでいるようでも、その間にお金が挟まっているような関係では本末転倒です。岡田はまさに顧客と握手する片手で自分の懐に手を突っ込んでいたわけです。
皆さんがアドバイザーを選ぶ場合は、利益相反の可能性を必ずチェックしましょう。
具体的にみるポイントの一つは、報酬体系です。例えばアドバイザーが特定の商品を売ることで高額なコミッション(手数料)を得る仕組みだと、その商品を強く勧める動機が生じます。また商品の売買を行うことで手数料を得ている場合、頻繁な売買をすすめる、いわゆる「回転売買」をされてしまう恐れもあります。
もちろん、コミッション型が全て悪いわけではありませんが、何によって収入を得ているかについて、納得いく形できちんと説明するアドバイザーかどうかは、判断ポイントになります。
また、「顧客の利益を最優先する」と誓約するフィデューシャリー宣言をしているかどうかもチェックポイントになります。もちろん、宣言をしていなくとも顧客の利益を最優先するアドバイザーもいますし、していても自社、あるいは自己の利益を最優先するやからもいますので、見極め方は、最後にお伝えします。
もう一つ大事なのは、実績や姿勢です。短期的な成果ばかり強調する人よりも、長期的な資産運用プランを一緒に考えてくれる人、リスクについてもしっかり説明してくれる人を選びたいですね。
庵野は沙織に対してクーデター自体を止めるなど苦言も呈し、決してイエスマンにはなりませんでした。一方の岡田は沙織の機嫌を取るような甘い言葉で近づき、彼女の短期欲求を煽っていました。本来のPB像に近いのはどちらか?といえば、言うまでもなく庵野の方でしょう。庵野は地味でも堅実な提案で資産を守ろうと努め、何より天宮寺家との長年の信頼を大切にしていました。岡田は派手な成果を演出しましたが信頼を裏切り、一家の資産も事業も危機に陥れました。皆さんが大切なお金を預けるなら、派手なプレゼンをする人よりも、地道に誠実に向き合ってくれる人を選びたいですよね。
では具体的に「この人は信頼できるPBだ」と判断するポイントをまとめておきます。
資格や経験は最低限チェックしておきましょう。FP資格やPB資格、中でも、FP1級やCFP,シニアPBは上級資格であり、一定以上の知識は持っています。
その人のキャリアも把握しておきましょう。証券会社や銀行での勤務経験と、勤務していた部署を知ることでどんな経験があるかはおのずとわかります。
また前述のように利益相反を避ける姿勢があるか(必要に応じて第三者の専門機関の助言を仰ぐなど透明性が高いか)も重要です。
最も重要なのは、コミュニケーション力と考え方です。こちらの価値観や長期的な目標や資産運用のゴールをヒアリングし、理解してくれるのか、難しいことも分かりやすく説明してくれるのか、疑問や質問には丁寧に答えてくれるか。そして何より、顧客本位の考え方なのか。
ろくにこちらの話を聞かず、「自分に全部任せておけば大丈夫ですよ」などと丸投げさせようとする人は要注意です。信頼できるアドバイザーほど、主体的に判断できるよう情報提供をしてくれるものです。
庵野と岡田の対比から学べるのは、「信頼」は数字以上に価値があるということです。たとえ一時的に運用成績が良くても、信頼を裏切るようなことがあれば元も子もありません。皆さんも大切なお金を預ける相手を選ぶ際は、ぜひ目先の数字や手数料だけでなく、人となりをしっかり見極め、「この人なら信じて大丈夫!」という感覚を大切にしてください。
4. まとめ
今回のお話を通じて浮き彫りになったテーマは、「信頼の価値」でした。事業承継では家族の信頼関係とファミリーガバナンスがいかに大事か、資産運用では信頼できる方針とブレない姿勢がどれほど重要か、そして何より人を見る目の大切さを教えられた気がします。沙織も誰を信じるかさえ間違えなければ失うことのなかった資産だったとも言えます。
ぜひ皆さんも、自分がもし沙織の立場だったらどうするか想像してみてください。家族の会社を継ぐなら周囲とどう向き合うか、多額の資産を運用するならどんなアドバイザーを選び、投資戦略を立てるのか。
答えすぐに出ないかもしれません。でも、「信頼できること」こそが何にも代え難い財産であることは間違いありません。お金の世界は数字や利益に目が行きがちですが、その土台を支えるのは人と人との信頼関係です。