【相続・財団設立】ドラマ『プライベートバンカー』第6話を現役PBが徹底解説!財団設立を活用した相続税回避策

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現実のPBがドラマ「プライベートバンカー」を考察してみた【第6話】

こんにちは!WealthLeadの濱島です。今回は、今年からスタートしたドラマ「プライベートバンカー」について、このドラマに登場するようなプライベートバンカーは現実的なのか、ドラマで描かれた内容も含めて、思うところを語ってみたいと思います。

今回は、天宮寺アイナグループ社長・天宮寺丈洋が総資産5,082億円という途方もない資産の相続先を決めようとするエピソードが描かれました。その展開をヒントに「相続を巡る人間模様」と「財団の活用」というテーマでお話しします。

1. 5,082億円は誰の手に

プライベートバンカーの庵野甲一(唐沢寿明)は、クライアントである天宮寺丈洋(橋爪功)から「自分の資産5082億円を誰に譲るか決めた」という重大な話を聞きます。天宮寺一族の前で丈洋が発表した相続候補者の中に、なんとこれまで彼の世話をしてきた介護士の相馬英美子がいました。英美子を養子縁組して相続人に加えるという決定に、長女の沙織(土屋アンナ)をはじめ家族は猛反発します。しかし妻の美琴(夏木マリ)は丈洋と話した後、あっさり英美子の養子を受け入れてしまいます。突然の展開に、一族内で緊張と不安が走ります。
実際、養子縁組は、法定相続人の数を増やすことで相続税の基礎控除額を増やすことできるため、相続対策として利用されることがあります。
相続税の基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」と定められています。例えば、相続人が実子1人なら基礎控除は3,600万円ですが、孫を養子にして法定相続人を2人に増やせば基礎控除は4,200万円に増えます。このように、養子縁組は相続税対策として一定のメリットがあるわけです。(養子縁組については第3話で詳しくお話していますのでぜひそちらをご覧ください。)
しかし、養子縁組による節税が「あからさま」と判断された場合、養子を相続人にカウントされない可能性もあります。
実際、相続税法63条は「相続税の負担を不当に減少させる結果となる養子縁組の場合、養子を法定相続人の数に算入しない」と定めています。さらに、相続税法15条では、被相続人に実子がいる場合は養子は1人まで(実子がいない場合でも2人まで)しか法定相続人に算入できないという制限もあります。
つまり、養子縁組を使った相続税対策は節度と合理性が求められ、節税だけを目的とした不自然な養子縁組は認められにくいのです。
加えて、養子を迎える決断は家族間の対立を招くリスクがあります。ドラマでも、突然の英美子養子入り宣言に子供たちが猛反発し、「介護士が財産目当てで近づいたのでは?」と疑心暗鬼になるシーンが描かれました。事実そうでした。
富裕層の家庭では、相続を巡って感情的な衝突(いわゆる“争族”)が起きることは珍しくありません。特に後妻や長年仕えてきた使用人・介護士など、血縁外の人物に資産を渡そうとすると、子供世代が猛反対するケースはわりとよくあります。養子縁組は法的には有効な手段ですが、家族の合意形成や周囲への十分な説明がないと大きなトラブルに発展しかねません。

2.財団の設立と英美子の思惑

最終的に庵野は、相続税対策として財団法人の設立を丈洋に提案しました。丈洋自身も悩んだ末にこの提案を受け入れ、自らの全財産を新設の財団法人に移し「財産を家族ではなく社会に残す」ことを選択しました。これはどういうことか、順を追って説明しましょう。
財団法人とは、特定の目的のために拠出された財産を元に設立される法人のことです。株式会社のようにオーナー(株主)が存在せず、財産そのものが法人格を持って運用されます。「財団」と聞くと慈善団体のようなイメージがありますが、実際その通りで、社会貢献活動や公益事業を行う公益財団法人と、もう少し自由度が高い一般財団法人の2種類があります。のちほどもう少し詳しく触れます。
いずれにせよ、創設者は自分の資産の一部または全部をその財団に移し、以後その資産は個人のものではなく財団の持ち物として管理・運用されます。
財団は定款に従い、理事会によって運営され、創設者の意思を継いだ活動(例えば奨学金事業や文化支援など。丈洋は新興事業の支援と言っていましたね)に資金を使っていくのが一般的です。
では、なぜ相続対策に財団を使うのか。最大の理由は相続税の節税と資産の長期的な保全にあります。日本の相続税率は累進課税で、遺産額が大きいほど税率も跳ね上がり、最高税率は55%にも達します。
つまり、大富豪ともなれば、対策なしでは半分以上が国庫に消える計算です。そこで生前に財団法人を設立し、自らの資産を移しておけば、もはやそれは個人資産ではないため相続税の課税対象から外すことができます。いわば「自分の財産を自分の手で手放してしまう」わけですが、その代わり税負担を大幅に軽減でき、さらに財団の形で資産を長期的に管理・運用していけます。
ただし、注意すべきは、先ほども述べたように財団法人にも種類があるという点です。公益財団法人と一般財団法人がありましたね。さらに、一般財団法人の中でも、大きく非営利型と営利型法人があります。
基本的にはどの財団法人であっても相続税はかかりません。一時期、このような特性を利用して、自ら設立した財団法人等に財産を寄付することで、贈与税・相続税を節税しようと考える動きが広がりました。そのことを「課税の公平」という見地からも大きな問題とし、平成30年に改正が行われました。今では次の要件のいずれかに該当する一般財団法人は相続税を課税されることになっています。

① 相続開始の直前における被相続人の同族が、理事のうちの2分の1を超えること。
② 相続開始前5年以内において、被相続人の同族が、理事のうちの2分の1を超える期間が3年以上であること。

また、所得に関しても、公益財団法人と非営利型の一般財団法人は税制上の優遇がありますが、営利型の一般財団法人は通常の普通法人として課税されます。

このように税制上のメリットがある財団法人ですが、注意点や割り切りも必要です。先ほど触れた通り、一度財団に移した資産は基本的に個人や家族の自由には使えなくなります。「家族のために遺したい」と思っていた財産を社会のものにするわけですから、相続人(子ども達)には直接恩恵が行きません。
これが、英美子が財団設立に猛反対した理由です。英美子はこれまで、「養子縁組制度を利用して資産を狙う”プロ養子”」として、過去に少なくとも3回以上、高齢者夫婦の養子となり、巨額の相続財産を手に入れてきました。彼女は自身の立場を「私が養子になった人たちは皆、感謝して幸せに死んでいった」と正当化し、自分は単なる“手間賃”を受け取っているだけだと主張していました。丈洋の孤独に寄り添い、その信頼と感謝の中で大きな相続権を獲得することが英美子の狙いだったのです。
ところが、財団法人に全資産が移されると、彼女が狙っていた相続権が完全に消失してしまいます。自分には遺産が入ってこないから、激しく動揺したのです。
財団法人の活用は資産家にとって強力な相続対策となり得ますが、その分「お金を手放す勇気」や明確な信念が求められる方法です。丈洋の選択は極端かもしれませんが、自分の財産をどう活かすかを真剣に考え抜いた結果とも言えます。視点を変えれば、相続とは単にお金を分け与えることではなく、そのお金に託す想いを次世代につなぐことなのだと、第6話は教えてくれているのではないでしょうか。

3. まとめ

今回のお話で私たちに教えてくれたのは、「お金」と「家族」のバランスについて考える大切さではないでしょうか。巨額の資産は人の欲や争いを招きますが、一方でそれを有意義に活かす道もある。丈洋は最終的に「家族にお金を残すこと」より「社会に役立てること」を選びました。その背景には、家族にはお金以外にも大切なものを遺したかったからかもしれません。
ドラマの中で引用されていたスティーブン・R・コヴィーの「子供に残せる永遠の価値を持つものは、家系や信条を表す『ルーツ』と、自立して飛び立つための『翼』の二つだけ」という言葉がありました。まさに、お金そのものよりもお金を通じて何を伝えるかが大事だというメッセージです。
残念ながら、丈洋の子供たちは父親の真意に気づかず、相続の知識が不足したまま、「自分がいくらもらえるか」という目先の利益に囚われた結果、全資産が財団に寄付されることになってしまいました。家族の絆が弱いと、思わぬ人物に付け入る隙を与えてしまったり、望まない形で財産が散逸してしまったりするかもしれません。
相続を考える上で、最も大切なのは、「自分の財産をどうしたいか」をじっくり考えることだと思います。そして、「誰に何を渡すのか」を考え、次に「相続税の納税資金をどう準備するのか」を具体的に考えてください。それから「節税対策」を検討する、この順番が大切です。相続対策は早めに、そして専門家と相談しながら進めることが肝要です。

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