現実のPBがドラマ「プライベートバンカー」を考察してみた【第5話】
こんにちは!WealthLeadの濱島です。今回は、今年からスタートしたドラマ「プライベートバンカー」について、このドラマに登場するようなプライベートバンカーは現実的なのか、ドラマで描かれた内容も含めて、思うところを語ってみたいと思います。
今回のエピソードでは、企業内不正がテーマになっており、美術品を利用した横領の話が描かれていました。
1. 消えた1億円
第5話の冒頭では、天宮寺グループの資産管理を任されたプライベートバンカー・庵野(唐沢寿明)が、グループ内の子会社天宮寺アートから「1億円が消えている」事実を指摘します。突然、巨額のお金が消えたことで、一族や役員たちは騒然となりましたね。このシーンは企業財務の内部監査の重要性を物語っています。
内部監査とは、会社の帳簿や取引を社内でチェックする仕組みのことで、これがしっかり機能していれば不審な支出や残高のズレに早期に気付けた可能性が高いです。
現実の世界でも内部監査の不備から横領が長期間見過ごされるケースがあり、私の知り合いでも社員が横領して被害に合ったという会社は何社もあります。
第5話では庵野が税務調査用の資料確認中に偶然この不正を見抜きましたが、裏を返せばしっかりとしたチェック体制の構築と定期的な監査がいかに大切かがわかります。
さらに物語が進むと、SNS上で「天宮寺グループで10億円以上の横領があった」というデマ情報が流れてしまいます。実際には1億円規模の話でしたが、SNSでは事実と異なる誇張があっという間に拡散されてしまいました。この風評被害のシーンは、現代の企業経営におけるリスクマネジメントの難しさをリアルに描いています。SNSの誤情報によって株価が変動するリスクもあり、作中でもオーナーの美琴が「株価への悪影響」を強く懸念していましたね。
現実世界でも、フェイクニュースなどで株価が急落したり、取引に影響が出る可能性があります。ことが起こったときには、「事実の把握」と「情報開示」、「誠実な対応」をいかに迅速に行うかが重要です。
2. 価格の吊り上げと中抜きスキーム
庵野は今回の不正のカギが天宮寺アートの仕入れにあると考え、秘書の飯田久美子(鈴木保奈美)を子会社に潜入させ情報収集しました。その結果浮かび上がったのが、美術品販売会社「アートスマート」と、その関連会社「アートスマートプラス」という2社の存在です。劇中では、この2社が二重の取引構造を作り出していました。
具体的には、天宮寺アートはアーティストから直接作品を買うのではなく、「アートスマート」という代理店から購入していましたが、アートスマートはアートスマートプラスから購入、「アートスマートプラス」がアーティストから作品を仕入れていることが判明します。この2社それぞれが中抜きを行っていたのです。
このようなスキームは横領の典型的な手口です。500万円で仕入れた作品を自分の関連会社に1000万円で売り、それをさらに別の会社に1500万円で売る。こうして差額の1000万円を不正利益として抜き取る、というイメージです。
支払い先の企業数がやたら多かったり、取引が関連会社間に偏っている場合はよく注意する必要があります。
ところで、なぜ美術品が使われたのでしょうか?それは「絵画や彫刻などのアート作品は株式や不動産と違い、「この価格が相場だよね」というのが分かりにくい商品だから」です。上場株式であれば常に市場で価格が明確になっていますが、美術品は一点ものが多く、専門家の評価やオークションの結果によって値段が左右されます。そのため、「この絵は1億の価値があります」と言われれば、知見のない人はそうなのかと思ってしまうこともあるでしょう。
つまり、価格操作が比較的容易なのです。第5話ではアートスマート社が値段を吊り上げ、その高騰した価格をもとにグループに高値で売りつけていました。現実にも似たような事例があります。
ニューヨークでもっとも優れたアートアドバイザーの1人として称えられたこともあるリサ・シフという人物が事件を起こしました。詳しい手口はわかりませんが、顧客にアートの買付代金だと偽り650万ドルを盗んだとして、昨年10月に有罪判決を受けています。
美術品の価値は専門家でも意見が分かれることが多く、不正が潜む余地が大きい分野です。今回のドラマは、そのアート市場の闇の一端を垣間見た内容と言えますね。
3. 伊勢崎の動機と顛末
では、この巧妙な横領劇の黒幕は誰だったのか?物語のクライマックスで明らかになった犯人は、専務の伊勢崎大和でした。彼は副社長・美琴の右腕としてグループを長年支えてきましたが、自らの立場を利用して裏で不正に手を染めていたわけです。
その動機として描かれたのが、個人的な借金問題でした。実は伊勢崎は違法なオンラインカジノにのめり込み、多額の借金を抱えていたのです。ギャンブル依存から来る借金の返済に行き詰まり、会社の金に手を出してしまったというわけです。
この展開は現実にもよくあるパターンで、企業の横領事件の動機を見ると、ギャンブルや投機の失敗による借金が原因だった例は少なくありません。
米メジャーリーガーの大谷翔平選手が1700万ドルものお金を横領された事件は、通訳がギャンブルで4000万ドル、なんと60億円も負けたのが動機だったそうです。また、三菱UFJ銀行の元行員が貸し金庫から10億円以上も横領した事件も、投機的なFX取引が動機になっていました。
伊勢崎は真面目一筋に見える役員でしたが、組織内でのプレッシャーや金銭的な頭打ち感からくる焦りもあったのかもしれません。長年尽くしても自分はオーナー一族ではなく報われないという鬱屈、そこにアートを使った横領スキームが目の前に現れ、魔が差してしまったのかもしれませんね。
また彼は発覚後、罪を部下のせいにしようと画策しました。劇中では天宮寺アートの担当主任に責任をなすりつけ、知らぬ存ぜぬを決め込もうとしました。しかし最終的には決定的な証拠を掴まれ、観念します。
組織内の権力構造における盲点も浮き彫りになりました。上に立つ人は不正を働くことができる権限がありますし、長年勤めて信頼の厚い人は疑われにくいという傾向があります。だからこそ会社は人に権限を与えすぎず「牽制し合う仕組み」を持たなければなりません。
伊勢崎の場合、横領したお金は返還させるものの、警察沙汰にはしませんでした。会社のイメージ悪化を避ける思惑があったのでしょう。第5話はお金の怖さと管理の難しさを教えてくれるストーリーでした。
4. まとめ
今回は、特に中小企業の経営者にとって学びがあったお話でした。ポイントはつぎの2点です。
1点目は企業内不正の未然防止です。
自社の財務諸表や決算書、資金繰りをチェックし、不自然な支出や残高の変動がないか確認することが必要です。特に、特定の取引先・代理店に支払いが集中していないか、相場とかけ離れた高額な購入がないかをチェックします。社内で権限が一極集中している部署があれば、ダブルチェックを検討しましょう。
また、幹部社員の生活ぶりにも注意を払います。例えば収入に見合わぬ豪勢な暮らしを急に始めた場合や、逆に借金苦に陥っていそうな兆候(周囲からの噂や資金繰りの相談)があれば、何か裏があると疑います。実際に「なぜかお金に困っている様子」の人が資金管理の役職にある場合、要注意です。
社員が不正を見つけても言い出せなければ意味がないので、匿名通報窓口を設置するなどの対策も検討してください。定期的な外部監査の活用も良いでしょう。
2点目は、リスク管理と危機対応です。
平時から社員にリスク管理の重要性を説きましょう。その上で、SNSやネット上の評判をモニタリングし、誤情報が拡散した際には即座に法務・広報チームと連携して動ける体制を整えたいですね。迅速な声明発表や取引停止措置などクライシス・マネジメントが欠かせません。
最後に、プライベートバンカーとして、投資としてのアートへの向き合い方をお伝えします。
富裕層の方の中には資産の一部をアート作品で保有する方もいらっしゃいますが、流動性が低く、価格の評価が難しいのがアートです。
購入に際しては、適切な事前調査を徹底し、作品の真贋証明や来歴も確認しましょう。具体的には、同種の作品がオークションで過去にいくらで落札されたかを確認する、一社の言い値だけを鵜呑みにせず、複数のギャラリーから見積もりを取る、独立した鑑定士に評価を依頼するなど、のプロセスを踏むようにしてください。
もちろん、投資ではなく、「好きな作品を購入して心の豊かさを求める」のであれば話は別です。ご自身が価値を感じるモノやコトにお金を使うことはとても有意義な投資であると思います。