現実のPBがドラマ「プライベートバンカー」を考察してみた【第4話】
こんにちは!WealthLeadの濱島です。今回は、今年からスタートしたドラマ「プライベートバンカー」について、このドラマに登場するようなプライベートバンカーは現実的なのか、ドラマで描かれた内容も含めて、思うところを語ってみたいと思います。
今回は、ドラマ「プライベートバンカー」第4話から、「暗号資産の税制」と相場格言「人の行く裏に道あり花の山」についてお話していきます。
それでは早速見ていきましょう。
1. スキャンダルの発覚
天宮寺昴は、恩師である大物政治家・久松康雄(堺正章)から裏金を受け取っていました。しかし、その金をパパ活相手の女性に渡していたところを週刊誌にスクープされます。記者に問い詰められた昴は焦り、「渡したのはハナウマハンバーグの食事券だ」と苦しい言い訳をします。しかし、週刊誌側はこの発言を逆手に取り、「お食事券で汚職事件」というキャッチーな見出しで報じる予定であることが判明。
昴のスキャンダルの影響は、彼個人だけに留まりませんでした。彼が言い訳に使った「ハナウマハンバーグ」は、天宮寺家が経営する「天宮寺アイナグループ」の企業だったのです。これにより、天宮寺アイナグループ全体のイメージが損なわれ、株価急落のリスクが生じます。企業経営者にとって、こうしたスキャンダルによる株価の下落は、経済的ダメージをもたらす大問題です。そこで、天宮寺家の妻であり、天宮寺アイナグループの副社長でもある美琴が登場、プライベートバンカーの庵野に「株価を死守せよ」「株価6,000円を割ったらクビ」というミッションを託します。
2. 証券担保ローンとは
実は美琴は、グループの株式を担保にして300億円もの融資を受けていました。これは、企業オーナーが資金調達のために利用する手法の一つであり、「証券担保ローン」と呼ばれます。
証券担保ローンとは、「株を担保にして借入をする」仕組みです。株式以外にも外国債券を担保として活用するケースもあります。証券担保ローンで借りたお金の使途は基本的に自由です。借入金を株式や外国債券に投資することで保有している資産をさらに活用できますので、富裕層にとってとても有効な手段です。
さて、株価が安定していて借入の金額よりも担保の資産価値の方が圧倒的に大きい時は問題ありません。しかし、担保にしている株の価格が大きく下がり、担保の価値が一定の判定ラインを下回ってしまうと、「担保割れ」の状態になってしまい、銀行から「追加担保の差し入れ」や「一括返済」を求められるリスクが発生します。
美琴が恐れているのはまさにこの点です。美琴が強調していた株価6,000円というのが、担保割れの判定ラインだったようです。銀行からの資金回収圧力が強まれば、資金繰りが悪化してしまう可能性もあります。
3. 庵野の策
庵野は、スキャンダルが報じられる前に、昴自身が記者会見を開き、「久松からの裏金を受け取り、それをパパ活に使った」と正直に公表するよう提案します。これには2つの狙いがありました。
① 久松という大物政治家の名前を出すことで、メディアの焦点を「昴」から「久松」へと移す
② 昴の「自発的な謝罪」によって、天宮寺家やアイナグループのダメージを軽減する
しかし、この作戦は直前で頓挫します。昴が記者会見の準備を進める中、久松が圧力をかけ、「会見を中止しろ」と指示を出します。昴も恩師である久松を裏切ることができず、葛藤の末、会見を取りやめてしまいます。この時点で、庵野の「先手を打つ作戦」は失敗に終わります。しかし、庵野はすぐに次の策を考え始めます。
庵野の次の標的は久松でした。今回のスキャンダルの大元である久松の裏金の証拠を掴もうとします。庵野は暗号資産の勉強会に潜り込み、久松へ接触を図りました。ここで分かったことは、久松は政治の世界では「暗号資産の規制強化慎重派」として知られているということです。庵野はこの点に注目し、久松がなぜ暗号資産の規制強化に慎重なのかを探りはじめました。
そんな中、天宮寺アイナグループに国税の査察が入ることが判明。久松の差し金で、昴ひとりに責任を負わせる条件を飲めば査察を止めるという。天宮寺家は絶体絶命のピンチに陥ります。
4. 完全無欠の無限裏金スキーム
記事が掲載される日が刻々と近づく中、庵野は久松の秘書・望月を見張っていた助手の御子柴から連絡を受け、とある中古CDショップに向かいます。そこでは望月と外国人の男がコールドウォレットと現金の受け渡しを行っていました。コールドウォレットとはインターネットを介さず、オフライン環境で暗号資産を保管するための物理的デバイスのことを言います。そして、相手の外国人の男は「相対屋」と呼ばれる暗号資産を現金化する違法業者でした。
本来、暗号資産の売買で20万円以上の利益が発生すると、その利益に対して所得税がかかります。所得税はその性質に応じて10種に分類されます。
勤務先から受け取る給与・賞与などは給与所得、株式投資の売買で得られた利益は譲渡所得、不動産の賃貸などで生じる所得は不動産所得、暗号資産の取引で得た利益は雑所得に分類されます。
そして、給与所得など他の所得と合わせて算出される「総所得金額」に応じて税率が変動する「累進課税」が適用され、5%から45%の所得税が課されます。住民税や復興特別所得税を合わせた場合の最大税率は約55%となります。ちなみに、株式投資で得た利益は譲渡所得、FXで得た利益は暗号資産と同様に雑所得。しかし、いずれも他の所得と分離して税額を計算する「申告分離課税」が適用されます。申告分離課税の税率は、所得の額に関わらず一律20.315%。暗号資産の売買益にかかる税金が高すぎるという声も少なくありません。
さらに、税金を納めるタイミングにも注意が必要です。利益が出た翌年の3月に所得税、6月に住民税を支払う必要があります。利益が出たうれしさで全部使い切ってしまうことがないよう、十分注意してください。
本編に戻ります。
このことから望月と久松は「暗号資産を通常のルートではなく、相対屋を使って直接現金に交換することで税金逃れをする」というような違法行為をしていたのです。
このやり取りを見た庵野は久松が次のようなスキームで裏金の受け渡しをしていると推理します。
① 暗号資産で裏金を受け取る
② 暗号資産の価値を操作して利益を増やす
久松は特定の暗号資産の価格操作を行っていました。これにより、例えば1億円相当の裏金が、短期間で2億円に増える可能性があります。ただし、現実には暗号資産も株式などと同様に金融商品取引法で規制されています。ドラマとはいえ、ちょっとやりすぎだと感じます。
相対屋を利用して現金化。相場操縦で儲け、それを税金を払うことなく手にしていました。
このことから庵野はこの一連のスキームを「完全無欠の無限裏金スキーム」と名付けました。
5. 記者会見での決断
庵野は、久松を追い詰めるための次の一手として、再び天宮寺昴に記者会見を開かせることにしました。昴は、スキャンダルの影響で精神的に追い詰められていましたが、庵野は、有名な相場格言である「人の行く裏に道あり花の山」を引用し、説得します。
その心は、「他人と同じ行動をしていては搾取されるだけ。逆張りこそが成功への道だ」というもの。昴は今まで周囲に流されるばかりで、自分の意思を貫いたことがありませんでした。庵野は彼に「自分で考えて行動することの重要性」を説いたのです。
庵野の説得を受けた昴は、記者会見でついに
① 久松康雄から裏金を受け取っていた事実
② その金を女性に渡していたこと
を公表します。これにより、スキャンダルの焦点が昴個人の問題から、久松という大物政治家の裏金問題へと移ります。記者会見が進むにつれ、報道の論調も「昴の倫理観の問題」から「久松の裏金問題」へとシフトしていきました。
記者会見を見た久松は激怒し、「国税に連絡しろ!」と指示を出します。しかし、この段階で庵野はさらなる切り札を用意していました。
庵野は、久松と秘書の望月について調査を進める中で、ある重大な事実を掴みます。それは、望月が久松の実の息子であるということ。望月は過去に巨額の詐欺事件を起こし、警察に追われていましたが、死亡していたことになっていました。ところが、実際は久松の力で海外へ逃亡、顔かたちを変え、「裏金スキーム」の中核を担う存在として舞い戻ってきていたのです。
庵野は以前、望月に名刺を手渡していましたが、望月はそれをすぐに捨てていました。その名刺には望月の指紋がベッタリと付着しており、これが「本人確認」の決定的な証拠になったのです。
この証拠を突きつけられた久松は、言い逃れができない状況に追い込まれます。完全に手詰まりとなった久松は、アイナグループへの国税査察を取り下げることを余儀なくされました。こうして、庵野は天宮寺家とアイナグループを救うことに成功したのです。
6. まとめ
今回のお話では暗号資産を利用した「完全無欠の無限裏金スキーム」が描かれましたが、これは決してフィクションの世界だけの話ではありません。実際に、暗号資産は匿名性が高く、マネーロンダリングや脱税の温床になり得るという側面があります。久松がおこなった行為は明らかに違法行為です。決してマネしないようにしましょう。
それともう一つ。庵野が昴に「人の行く裏に道あり花の山」という相場格言を説いていました。この言葉は、投資の世界では非常に有名な格言で、「みんなと同じ行動を取るのではなく、市場の動きを冷静に見極め、人と違う視点を持つことで、大きな利益を得られる可能性がある」という考え方を示しています。
今回、昴は「周囲の流れに流されるだけの人間」でしたが、庵野はそれに気づかせるために「自分の頭で考えろ」と伝えました。投資においても、ネットの書き込みやYouTuberの意見を鵜呑みにするのではなく、自分の頭で考えることが大切です。