こんにちは!WealthLeadの濱島です。今回は、今年からスタートしたドラマ「プライベートバンカー」について、このドラマに登場するようなプライベートバンカーは現実的なのか、ドラマで描かれた内容も含めて、思うところを語ってみたいと思います。
今回の学びは、「富裕層の相続対策と節税対策」、投資に活かしたい「相場格言3選」です。
① 誘拐事件の真相と後継者争い
今回のエピソードは、「息子が誘拐された!」というサプライズから始まります。しかし、蓋を開けてみると、犯人はなんと祖母である天宮寺美琴。犯罪ではなく、これは「相続対策」でした。富裕層の間では、相続対策として孫を養子にすることは決して珍しくありません。養子縁組を活用することで、相続税の基礎控除額を増やし、節税することができるためです。
具体的には、(3,000万円+600万円×法定相続人の数)が基礎控除額となるため、法定相続人の数が増えれば相続財産を減らすことができ、その結果、相続税を減らすことができるのです。だからと言って、養子を作れば作るほどよい!というわけではありません。法定相続人に含めることができるのは、実子がいる場合には1人、実子がいない場合には2人までという制限があります。
さらに、財産を取得した人が配偶者、父母、子以外の場合、「相続税の2割加算」というルールがあります。被相続人の養子となっている孫は、被相続人の子が相続開始前に死亡した時や相続権を失ったためその孫が代襲して相続人となっているときを除き、相続税額の2割加算の対象となります。しかし、美琴の目的は単なる相続対策ではなく、「天宮寺アイナグループを継ぐ適任者を育てること」にありました。彼女は自分の3人の実子を後継者としてふさわしくないと判断し、孫の海斗を後継者にすべく育てる決断を下したのでした。
実際の事業承継においても、「後継者の選定」は極めて重要な問題です。血縁関係よりも経営能力を重視するのか、あるいは家族経営を維持するのか、どちらを選ぶかで企業の将来が大きく変わります。多くのファミリー企業では、社外のアドバイザーやコンサルタント、プライベートバンカーが関与しながら、この後継者問題に対処しています。
② 婿養子・宏樹の立場と企業内政治
本作のもう一つの大きなテーマが、「企業内政治」と「婿養子の立場」です。宏樹は天宮寺家の娘・沙織と結婚し、婿養子として天宮寺アイナグループの役員に就任しました。しかし、彼は単なる「名ばかりの役員」であり、実際には美琴の意向に従うしかない状況。会社の部下からは「天宮寺家の犬」と揶揄されるほど、完全にコントロールされています。
そして、美琴に逆らうと、会社での立場がどんどん悪化していきます。宏樹が養子縁組を断ると、まず関連会社へ左遷され、その後、一転して「本社の役員に推薦される」という話が持ち上がります。この流れには、日本の企業特有の「役員登用の落とし穴」が隠されています。日本の労働法では、一般の従業員は簡単に解雇できません。しかし、役員は「労働者」ではなく、会社との雇用関係がないため、正当な理由がなくても解任できるのです。美琴はこれを利用し、「関連会社での活躍を評価する」という表向きの理由で宏樹を本社役員に推薦し、いずれ解任するつもりだったわけです。
これは「企業内政治のリアル」を描いたシーンでもあります。オーナーの意向が強い企業では、社長や会長の一存で人事が決まることも多く、役員登用が「名誉」ではなく「退場準備」になることもあるかもしれませんね。また、この一連の展開の中で、庵野が宏樹の状況を「塩漬け」と表現するシーンがあります。これは投資の世界で、「価値が下がっているとわかっていても、損切りできずに持ち続けてしまう状態」を指します。宏樹が会社に逆らえず、何も決断できないまま流されていく様子を皮肉っているわけです。
③ 事業保険と高級クルーザー購入スキーム
さらに、今回のエピソードでは「事業保険」を活用したスキームが登場します。御子柴の調査によって、宏樹には会社から「事業保険」がかけられていることが発覚。この事業保険は、保険料を会社が支払うことで経費に計上できるので、節税対策になります。そして、一定期間後に解約すれば解約返戻金が戻ってくるというものです。しかし、解約返戻金は会社の所得となり、多額の解約返戻金は多額の法人税を支払うことになります。これを回避するために「経費計上できる別の支出」を行うのが典型的なスキーム。ここで美琴が考えていたのが、「4億円の高級クルーザー」の購入でした。
この流れを整理すると、
- 事業保険を解約 → 返戻金を受け取る(課税対象)
- クルーザーを購入 → 会社の経費として計上
- 法人税を回避しつつ、資産を確保
という仕組みになります。クルーザーは償却が取れる資産です。通常は4年での償却になり、定率法と定額法を選択することになります。仮に定率法を採用した場合、償却率は0.5となるため、4億円×0.5で、初年度は2億円の損金を計上できることになります。これは大きいですね!
実際の企業でも節税のために不動産や高級車などを購入するケースはよくあることです。ただし、このようなスキームは、あくまで「適切に運用」されるべきものであり、会社の経営目的ではなく個人的な利益を目的として悪用されると、後々問題になる可能性があります。
最終的に、宏樹はこの一連の計画に気づき、「自分は駒に過ぎなかった」と悟ります。庵野はこの流れを「婿骨まで食い尽くしスキーム」と名付けました。これは、天宮寺家において、単なる一族の駒として利用される婿養子の実態を表した辛辣な表現です。
相場格言の解説
「塩漬け」
今回のエピソードの中で、庵野は宏樹の状況を「塩漬け」と表現しました。株式投資において、購入した銘柄の株価が下がったものの、売却して損失を確定する決断ができず、そのまま放置してしまうケースが「塩漬け」です。この状態になる主な原因として、次のような心理的要因が考えられます。
- サンクコスト効果(埋没費用の誤謬): すでに投資したお金や時間を無駄にしたくないという心理。「ここまで待ったのだから、もう少し待てば戻るはず」と考えてしまう。
- 損失回避バイアス: 人間は利益よりも損失を強く意識する性質があり、損を確定させる決断が難しくなる。「今売ったら負けた気がする」と考え、行動できなくなる。
- 希望的観測: 「いずれ価格は戻るだろう」と根拠なく楽観的な見方をする。しかし、実際にはトレンドが変わらず、さらに状況が悪化することが多い。
では、宏樹の状況とどう重なるのでしょうか?
彼は天宮寺家に婿入りし、会社の役員としてのポジションを得ました。しかし、実際には美琴にコントロールされ、「天宮寺家の犬」と言われるほど、自由に動けない状態です。それでも彼は「期待されている」と信じ続け、決断を先送りにしてしまいました。このように、会社や家庭内で不利な状況にありながら、それを変える決断ができず、ただ流され続けることも「塩漬け」と言えるでしょう。
「もうはまだなり、まだはもうなり」
今回、「もうはまだなり、まだはもうなり」という相場格言も登場しました。これは、投資の世界では非常に有名な言葉です。投資家の心理がタイミングを誤らせることを示しています。
この格言の意味
- 「こんなに上がったからもう上がらない」とか「いくらなんでもこれ以上は下がらないだろう」と思っている時にはまだトレンドが続いている可能性がある。
- 「まだまだ上がるはず!」とか「まだまだ下がるよねー」と思っている時には、すでに株価の天井や底値を過ぎていることが多い。
この格言が宏樹に向けて使われたのは、彼が美琴の期待を信じ続け、「まだ何とかなる」「まだ認めてもらえる」と思っていたことが、実は手遅れだったからです。彼は、自分の役員昇進を「チャンス」だと思っていたが、実はそれが「解雇への布石」だったことに気付くのが遅すぎました。また、彼が会社を辞める決断をするまでにも長い時間がかかり、ようやく「もう無理だ」と悟った時に、新たな道(動画事業)が開けたわけです。これは人生やキャリアにおいても当てはまりそうですね。
「まだ大丈夫」と思っているうちに、状況はどんどん悪化する。
「もうダメだ」と思った時にこそ、ピンチはチャンス!新たなステージが開けるかもしれません。
「見切り千両」
最後に、ドラマには登場していない相場格言を一つ、「見切り千両」。市場の状況や銘柄、ものごとの本質を見抜く力と、たとえ損失が出たとしても、冷静な判断し、意思決定することが重要であることを指しています。人生にも投資にもぜひ活かしていきましょう!