現実のPBがドラマ「プライベートバンカー」を考察してみた【第2話】
こんにちは!WealthLeadの濱島です。今回は、今年からスタートしたドラマ「プライベートバンカー」について、このドラマに登場するようなプライベートバンカーは現実的なのか、ドラマで描かれた内容も含めて、思うところを語ってみたいと思います。
ドラマ「プライベートバンカー」第2話では、富裕層一族のサスペンスチックな事件の解決を依頼されたプライベートバンカーの庵野甲一が活躍する様子が描かれています。今回のドラマの中で、2点、学びのポイントがありました。
1点は、「リスク分散の重要性」です。「卵は一つの籠に盛るな」という投資格言と、長期・分散・積み立てが強調されていました。
もう1点は、株式会社の株主に関する知識です。この点は株式会社の経営者にとって知っておくべきリテラシーだと思います。
それでは早速本編を振り返ってみましょう。
1. プライベートバンカーの役割
今回のお話は天宮寺家の長男・努が階段から転落し、意識不明の重体に陥ったことから始まります。努の運転手がその場面を目撃しており、女性に突き落とされたと証言します。
そこで、丈洋の妻で一族の絶対的権力者として君臨する夏木マリさん演じる天宮寺美琴は、プライベートバンカー・庵野甲一(唐沢寿明)に犯人捜しを依頼します。現実的には、プライベートバンカーが刑事事件に首を突っ込むことはまずありません。とはいえ、富裕層が抱える課題は多岐にわたり、弁護士や探偵など様々な専門家と連携してことにあたるのはよくあることです。
加えて、庵野が言っていたように「信用を勝ち取る」ということはプライベートバンカーに限らず、ビジネスにおいてとても大切なことですね。顧客が求めるものは必ずしも商品やサービスの品質だけではありません。「この人に頼めば安心」「この会社なら困ったときに助けてくれる」と思っていただくことが、長期的な関係構築につながります。ここで期待を超える対応をすれば、他の誰にもない強い信用を得ることができます。
2. 愛人ロンダリングとは
庵野は助手の御子柴修と、新たに助手となっただんご屋社長の飯田久美子と共に、努の周辺を探り始めます。
すると、努が設立した資産管理会社が所有するマンションに、努が通っているヨガ講師で愛人の霧島幸絵を住まわせていることが判明。愛情のもつれから殺意を抱いたのではないかと庵野は幸絵に詰め寄りますが、幸絵は努からは愛されていて、いい生活もさせてもらっていたのに殺そうとするわけがないと否定します。しかし、庵野は幸絵に「愛ではなく節税」だと言い切ります。
実は努は、愛人である幸絵を資産管理会社の秘書として雇用することで、幸絵の生活費や、プレゼント代を資産管理会社の経費とすることで節税を図っていました。
支出を経費として計上し、節税することはよくあることですが、なんでもかんでも経費計上してしまうと租税回避と見なされて追徴課税のリスクがあります。税務については、プライベートバンカーも一般的な意見や考えを伝えることはできるものの、個々の案件に関する税務アドバイスはできません。税務については必ず税理士さんに確認するようにしましょう。
そして、幸絵の件について庵野から報告を受けた努の妻・天宮寺果澄(MEGUMI)は、幸絵を呼びつけ、マンションから退去するよう告げ、退職金と口止め料として500万円の現金を渡そうとします。幸絵は努が目覚めたら自分を選ぶはずだと捨て台詞を残し天宮寺家を後にしました。果澄は、庵野に幸絵が二度と努に関わらないよう徹底排除を依頼することになります。
この一件をきっかけに、ヨガの仕事もクビになり全てを失った幸絵。本気で努を愛するようになっていた彼女に追い打ちをかけるように、庵野から努が幸絵の他に5人の愛人がいた事実を突きつけられます。さらに努は、幸絵が代表取締役を務める新会社に増資した500株を持たせ、5人を新会社の取締役に仕立てることで、彼女たちにかかる費用を経費にしていました。これをドラマの中では「愛人ロンダリング」と呼んでいました。すごいネーミングですね!
現実的にはかなりリスキーな行為です。他人に株式を持たせる、あるいは他人に名義を貸してしまう、どちらも安易にすべきではありません。慎重に検討すべきことです。
ドラマでは、吹っ切れた幸絵は努のいる病院に忍び込み、努を手にかけようとしてしまいます。庵野に止められたことで未遂で終わりましたが、幸恵は、努の資産管理会社の株式100株のうち、99株を所有していました。努が亡くなれば会社は資産ごと幸絵のものになる、ときいていたことを信じ込み、手にかけようとしていたのです。
ですが、それはうそ。99の株に議決権はなく、努が持つ1株が“黄金株”で、努が亡くなれば、幸絵の株は事実上消滅してしまうそうです。
通常、株式には議決権があります、定款で特段の定めがない限り、1株に対して1議決権が与えられているので、過半数の株式を保有していればその会社の経営権を取得できます。黄金株というのは、通常、株主総会決議や取締役会決議について拒否権をもつ株式のことです。
また、株式には、さまざまな権利を設定できる種類株や人に権利を設定できる属人的株式もあります。会社の支配権や相続対策に活用できますので、検討する際は弁護士さんや弊社にご相談ください。
3. 幸絵の復讐
庵野は「今が損切りのタイミングです」と幸絵に助言し、新しい道を進むように促します。「骨までしゃぶりつくす」と覚悟を決めた幸絵は他の5人の愛人たちと共に自分と新会社が所有する資産管理会社の株を2億円で買い取ってもらいたいと果澄に告げます。
ドラマでも少し説明がありましたが、会社が資産を売却するときには気を付けるべきことがあります。それは会社法における「重要な財産の処分」に該当するかどうかという点です。「重要な財産の処分」に該当するか否かは、「財産の価値」「会社の総資産に占める割合」「保有目的」「処分の様態」「会社における取り扱い」の5つを総合的に判断され決定されます。「重要な財産の処分」に当たる場合には取締役会の決議が必要になり、さらに、重要な財産処分にとどまらず事業の譲渡にあたるような場合には、株主総会の特別決議を得る必要があります。
取締役会設置会社か否かによっても違いますが、重要な財産の処分や事業譲渡については、取締役会や株主総会の特別決議を得て行う必要があります。もし怠った場合には取引自体が無効とされる可能性もあります。
今回彼女たちが売却を希望したのは幸絵が代表取締役、5人の愛人が取締役を務める新会社で保有していた努の資産管理会社の株式です。「重要な財産の処分」に該当するかどうか分かりませんが、場合によっては取締役会だけでは済まない可能性があることに注意しておきましょう。
不正や不倫が暴かれることを恐れた努は、結局愛人たちの言い値の2億円で買い戻すことになりました。一度は全てを失った幸絵でしたが大金を手に入れることで新たなスタートを切ることができました。
さらに、物語のラストでは、妻の果澄もまた、運転手の原田と不倫関係にあったことが明らかになりました。努を階段から突き落とした犯人は、原田だったんですね。しかし庵野は美琴に、努は不慮の事故だったと説明。庵野は果澄という、自分に逆らえない内通者を手に入れたのでした。
最終的には庵野が天宮寺家の家族関係を巧みに調整しながら、美琴から正式にプライベートバンカーとして迎え入れられます。実際にも、富裕層は家族関係が複雑になっていて、微妙な調整が必要なケースは多いです。
ただし、庵野のように顧客の弱みを握り、それを利用して自らの立場を強固にするような手法は、倫理的にあり得ません。顧客との深い信頼関係が何よりも重要であり、そのためには倫理的な行動が不可欠です。
4. 今回の学び
庵野達がすきやきを食べるシーンで、久美子が卵を一つのかごに持っていたため、全部割れてしまうシーンがありました。
努のような「愛情の分散投資」はともかく、資産運用に際には「卵は一つのかごに盛るな」、「長期・積立・分散」を心掛けてくださいね。
5. まとめ
「プライベートバンカー」第2話は、ドラマとしての面白さを追求しながらも、投資格言を取り入れるなど、楽しく金融知識を学べるお話となっていました。
今後のドラマの展開がどのようにPBの仕事を描いていくのか、引き続き注目したいと思います。