皆さん、こんにちは!今回は、『プライベートバンカー』という職業について全2回に分けて解説していきます。
実は、2025年1月9日から唐沢寿明さん主演で『プライベートバンカー』という連続ドラマがスタートします。このドラマでは、富裕層を支えるプロフェッショナルの活躍が描かれるそうですが、実際のプライベートバンカーの仕事はどのようなものか、関心を持つ方も多いと思います。そこで、日本証券アナリスト協会認定のシニア・プライベートバンカー資格を持ち実際にプライベートバンカーとして仕事をしている私が、この職業の魅力と現実をご紹介していきます。ぜひ最後までお付き合いください。
プライベートバンカーの概要
プライベートバンカーとは、富裕層のお客様一人ひとりに寄り添い、その資産管理や資産運用、事業承継、さらにはライフプラン全体をサポートするプロフェッショナルです。一般的には銀行や証券会社などに属しながら、顧客の人生に長期的に関わり、オーダーメイドのサービスを提供します。この職業は、ヨーロッパ、特にスイスに端を発し、王侯貴族の資産管理から発展しました。現在では、金融の知識だけでなく、法律や税務、不動産など多岐にわたる専門知識が求められる職業として進化しています。また、倫理観と顧客志向を備え、顧客の信頼を得ることで初めて成り立つ仕事でもあります。
歴史と背景
プライベートバンキングの歴史を振り返ると、ルネサンス期のイタリアにその起源を見つけることができます。当時、メディチ家のような大富豪が自らの資産管理を任せるための銀行を設立したのが始まりです。
その後、スイスが永世中立国としての立場を確立し、世界の富裕層にとって資産を保全する安全な拠点となりました。特に、1934年に制定されたスイス銀行法により秘密保持が強化され、多くの富裕層がその恩恵を受けるようになりました。しかし、近年ではマネーロンダリングや税逃れへの国際的な規制が強化され、プライベートバンクもより透明性の高い運用が求められるようになっています。
それでもなお、スイスをはじめとするプライベートバンキングは、富裕層にとって不可欠な存在であり続けています。
仕事概要
プライベートバンカーの仕事内容は多岐にわたりますが、最も重要なのが、資産運用、資産管理です。
新規の顧客と最初に面談する際には、顧客の仕事や家族構成、資産の額、資産構成だけでなく、考え方、価値観、将来の目標、など、幅広く、深くヒアリングします。そして、それを基に、資産運用を検討していきます。
資産運用は、伝統的な株式や債券だけでなく、不動産やプライベートエクイティ、ヘッジファンドなど、プライベートアセットをも組み合わせたポートフォリオを設計します。
また、顧客が持つ課題に応じて、相続や贈与の計画、さらには事業承継における税務最適化の提案も行います。さらに、ライフイベントにも対応し、ご家族の海外留学や名医の手配、個人的な趣味に関連することをカバーすることもあります。
特にファミリービジネスを営む富裕層は、ファミリーミッションステートメントと呼ばれる家族全体が共有する価値観、目標、そして行動指針が重要になってきます。会社ごとに社是があるように、一族にもファミリーミッションステートメントがあり、これをサポートしてしていく役割も果たします。
事業承継や、慈善活動のサポート、次世代の育成など、プライベートバンカーの視点が加わることで、ファミリーミッションステートメントはより実現可能で持続可能なものとなり、一族の目標達成と繁栄、調和に貢献するのです。
このように、プライベートバンカーは顧客の人生の重要な局面に深く関わりつつ、長期的な繁栄のために最適な解決策を提供する存在です。
求められる資質
プライベートバンカーとして成功するためには、3つの重要な資質が求められます。それは『高い倫理観』『真の顧客志向』『全体最適を追求する視点』です。
高い倫理観
プライベートバンカーは、顧客である個人の懐に深く入り込み、長期的に、場合によっては幾世代にもわたって顧客であるファミリーのために仕事を続けていきます。この職業は、顧客から寄せられた厚い信頼に基づいて成り立っています。
そこで、知りえた情報と優位性をもとに自己の利益を図るようなことがあってはなりません。また、業務を遂行していく上で知りえた顧客情報を外部に漏らすようなことは絶対にあってはなりません。例えば、資産運用の過程で知り得た個人情報や財務データは厳格に管理され、万が一にも漏れるようなことがないようにする必要があります。これを怠ると、顧客との関係が崩れ、バンカー自身や所属する金融機関の信用も損なわれます。
当然、法令順守も必須です。金融業界のみならず、関連する業法を守り、に加えて、顧客を最優先に考える姿勢が不可欠です。
真の顧客志向
プライベートバンカーは、「顧客の利益のために最善を尽くす」ことが求められます。単に契約上の義務を果たすだけでなく、専門的能力をフルに発揮し、最大限の努力をすることが必要なのです。そのために、単に顧客の希望を聞くだけでなく、潜在的な課題やニーズを見つけ出し、それを解決するための提案を行う能力も必要です。
たとえば、顧客が相続対策を求めている場合、現行の税制だけでなく、将来の法改正を見据えた長期的な視点でのアドバイスが求められます。さらに、顧客の価値観や家族構成、事業の方向性を深く理解することで、信頼関係を構築し、その期待を超えるサービスを提供するのです。
全体最適を追求する視点
顧客が抱える複数の課題や目標を、どのようにバランスよく解決するかを考える能力です。
例えば、資産運用だけでなく、事業承継や不動産管理、さらには家族間の関係調整まで幅広く対応する必要があります。あるケースでは、顧客が複数の事業を所有しており、その中でどの事業を次世代に承継すべきか、あるいは売却すべきかの判断を求められることがあります。ここで重要なのは、短期的な利益ではなく、顧客の人生全体にとって最善の結果を提供することです。
さらに、これらの資質を支えるためには、幅広い専門知識が必要です。金融、法律、税務、不動産など、さまざまな分野の知識を網羅することが求められます。また、これらの知識を常に最新のものにアップデートするために、業界のトレンドや規制の変化に対応する不断の学習が欠かせません。定期的に専門セミナーに参加したり、業界の最新レポートを読むことで、自身のスキルを磨き続ける努力が必要です。この仕事は、高度なスキルと誠実さが試される職業と言えるでしょう。
プライベートバンカーとしての成功は、顧客一人ひとりに合わせた最適な解決策を提供することで築かれます。そのためには、自身の知識と経験を基盤にしながら、常に顧客に寄り添う姿勢を持つことが求められます。