ドラマ「プライベートバンカー」第1話の現実性を考察
こんにちは!WealthLeadの濱島です。今回は、今年からスタートしたドラマ「プライベートバンカー」の第1話について、このドラマに登場するようなプライベートバンカーは現実的なのか、ドラマで描かれた内容も含めて、思うところを語ってみたいと思います。
1. ドラマの設定とプライベートバンカーの実像の比較
唐沢寿明さんが演じる庵野甲一は、富裕層の資産管理を専門とする敏腕プライベートバンカーという設定です。特定の金融機関に所属せず、独立系のプライベートバンカーとして活動しているようですね。
実際のプライベートバンカーも、富裕層の資産運用や相続対策をサポートする重要な役割を担っています。多くは大手銀行や証券会社に所属していますが、独立して活動するケースもあります。弊社も独立系のプライベートバンカーとして、富裕層向けの金融ビジネスを展開しています。
ドラマの中では、プライベートバンカーが超富裕層の「御用聞き」として、税務対策や資産運用のみならず、特別な買い物の手配や趣味の相手まで務める様子が描かれています。実際、顧客の要望に応じたライフスタイルマネジメントまで対応するケースもあります。
2. 第1話の物語構成
第1話では、クライアントである資産7000億円超を誇る天宮寺アイナグループの社長・天宮寺丈洋(橋爪功)から「お気に入りの団子屋を守ってほしい」という依頼を受けます。しかし、その団子屋の背後には単なる資金難ではなく、投資詐欺や遺産相続問題が絡んでいました。
現役のプライベートバンカーとして感じたのは、富裕層が抱える問題の複雑さです。相続対策や資産保全は、家族間の人間関係や事業承継の課題も含まれます。ドラマでもその点が描かれておりました。
そして、今回のお話で皆さんの学びとなるのは「投資詐欺に気を付けよう」ですね。物語の中心人物である団子屋2代目の鈴木保奈美さん演じる飯田久美子さんは自身に金融知識がないがために投資詐欺に巻き込まれ、多額の負債を抱えることになります。さっそく内容を振り返っていきましょう。
3. 前澤友作氏の特別出演
冒頭シーンでは、実業家の前澤友作氏が特別出演していました。
彼自身が所有するプライベートジェットと、世界に1台のロールスロイスを披露し、ドラマのゴージャスな雰囲気を一層引き立てました。さらにプライベートバンカーである庵野甲一が前澤氏のプライベートジェット購入を手配したような会話が映っていました。
一口に富裕層といっても、資産の額が「使い切れる額か、それとも一生かかっても使い切れない額か」によって違ってくると思います。
例えば、数十億円であれば、使い方次第で使い切ることができますが、数千億円から数兆円規模になると、個人で使い切るのは現実的に難しくなります。そのレベルの資産を持つと、お金に対する考え方自体が大きく変わるように感じます。
例えば、ドラマのように富裕層がプライベートジェットを購入するのは、お金が単にモノに変わるだけで、資産そのものが大きく減るわけではないからです。莫大な資産を持つと、お金の使い方も「減らすため」ではなく「どのように資産の形を変え、活用するのか」という発想に変わっていきます。資産を「使い切れる」範囲にある富裕層は、資産をさらに増やすことを重視しますが、「一生かかっても使い切れない」レベルの資産を持つ富裕層は、単に資産を増やすことにはあまり関心がありません。むしろ、「資産をどう守るのか、あるいは資産をどう有意義に活用するか」を重視し、慈善活動や社会貢献に力を入れる人が多いのです。
4. 飯田久美子の案件における詐欺のスキーム
鈴木保奈美さん演じる飯田久美子は、だんご屋を経営するシングルマザーであり、物語の中心人物の一人でした。
第1話では、融資を受けるために相談した銀行員の提案を信じた結果、投資詐欺に巻き込まれ、5億円もの負債を抱えることになってしまいます。さらにその背後には、大手食品メーカーの宇佐美食研の社長・宇佐美卓也(要潤)が仕掛けた巧妙なスキームが存在していました。いわゆる『ポンジスキーム』と呼ばれるものです。ポンジスキームは、次のような仕組みになっています。
ポンジスキームの仕組み
- 元本保証・無リスクをうたい、年10%や20%など高利回りの投資案件で出資者からお金を集める
- 運用する(というのは建前で、実際には運用しない)
- 後から参加する別の出資者から集めたお金の一部を着服する
- 残ったお金を以前の出資者に配当金と偽って横流しする
ポンジスキームでは、集めたお金を配当金と偽り、横流ししています。出資者が増えているうちは実際に配当がもらえるため、信用してしまうパターンも多いようです。
最近ではお笑い芸人TKOの木本さんが友人も巻き込んで7億円の被害にあった例がありました。また、ずいぶん以前に、元ナスダックの会長を務めていたバーナード・マドフ氏という人が、大掛かりな詐欺で被害総額650億ドルもの事件もありました。映画監督のスティーブン・スピルバーグ氏、米大リーグ球団ニューヨーク・メッツのオーナー、野村ホールディングス、あおぞら銀行など、著名投資家や金融機関までもが被害にあっています。
プラベートバンカーの現場に限らず、みなさんが投資詐欺に巻き込まれるリスクは常に存在します。投資に迷ったら、信頼できる知人・友人、あるいは今回のように信頼できるアドバイザーやプライベートバンカーに相談するのも良いかと思います。また、金融庁や消費者庁などの相談センターに相談することも有益です。どんなことでも気になったことは臆せず連絡をとって相談してみてください。
5. 相続問題の複雑さと解決策
さて、本編に戻りますと、余命わずかとされる宇佐美会長(社長・宇佐美卓也の父親)は、同社の株の3割を保有しており、その価値は約10億円に上ります。もし会長が亡くなった場合、その株は息子である宇佐美卓也に相続されると思いきや、実は愛人との隠し子であった久美子にも相続されることが判明します。
久美子が相続する5億円分の株は、宇佐美卓也にとって大きな痛手となるため、彼はこれを阻止する策を講じました。
そこで宇佐美卓也は、久美子に詐欺を仕掛け、5億円もの負債を負わせて、実質的に久美子の取り分を帳消しにするという計画を実行したようですね。
そして庵野はこの陰謀を暴き、久美子に「相続分を守るために反撃しよう」と提案します。
庵野は、宇佐美が仕掛けたスキームの全容を久美子に説明し、彼女の相続権を守るための作戦を立案します。
実は久美子の手元には過去に母から相続していた株券がありました。
その株は議決権比率が3%に相当することを突き止めた庵野は、株主としての権利を駆使して宇佐美卓也を追い詰めることを提案。ドラマでも説明されていた通り、議決権比率が3%を超える株主に認められている権限として、株主総会の招集請求権、会計帳簿の閲覧及び謄写請求権があります。経費の乱用を見られたくない宇佐美卓也はこの会計帳簿の閲覧を拒みます。このように母が持っていた株券が切り札になったわけですが、実際には非上場企業の株式には譲渡制限が付いていることが一般的です。譲渡制限の具体例としては「株主総会で承認を得ないと譲渡することができない」などといったものが挙げられ、実際には会社の承認なくして愛人に株券を渡すというのは極めて難しいといえるでしょう。
最終的に、久美子は宇佐美卓也に対し、株の買い取り交渉を行い、6億5000万円という高額で売却に成功。これにより、詐欺の負債を帳消しに成功しました。ドラマでは半ば脅しのような格好で買い取ってもらっていましたが、非上場株式は、取引市場における相場というものがありません。そこで、譲渡に際しては、適正な価額を設定するために株式の客観的価値を算定する必要がありますが、非上場株式の価値算定については様々の方法があるため、一義的に決まるものではないことに注意してください。
さらに、これはあくまでドラマですから最終的には久美子の抱えた負債は帳消しになりましたが、実際に投資詐欺にあった場合、失ったお金はほぼほぼ戻ってこないと思っておいたほうがいいでしょう。投資詐欺は巧妙化しており、一見すると信頼できそうな人物や企業を装うケースが増えています。「元本保証」「必ず儲かる」といった甘い言葉には特に注意が必要です。「うまい話には裏がある」ことを忘れず、慎重に判断しましょう。最低限の金融リテラシーを身に着けることが、自身と資産を守るための最大の防御策となります。
実際には、このように犯罪を犯してまで相続財産を独り占めしようとすることはほぼないと思います。ただし、多額のお金を目の前にして、肉親同心で争族、争う族になることは多いのが現実です。プライベートバンカーは、法的な知識と持ち前のスキルを駆使し、家族間の争いを未然に防ぐためのアドバイスを行っています。
6. 物語のサスペンス要素とプライベートバンカーの役割
サスペンス色を帯びます。このようなドラマチックな展開は、現実のプライベートバンカーの仕事にはあまり関係がありません。
しかし、富裕層の資産管理においては、家族間の対立や人間関係のトラブルが避けられないケースもあります。プライベートバンカーとしては、資産運用・資産管理だけでなく、顧客の信頼を得て、家族間のコミュニケーションをサポートする役割も重要です。
7. まとめ
ドラマ『プライベートバンカー』第1話は、現実の世界をかなり誇張した形で描いていますが、富裕層が抱える問題の複雑さや、投資詐欺が巧妙化してきていることを視聴者に伝えるという意味で意義のある内容でした。
皆さんも投資詐欺には十分注意し、最低限の金融リテラシーを身に着けることを心がけましょう。何か不安があれば、信頼できるアドバイザー、適切な機関に相談するのも有効な手段です。